人の感覚の種類を聞かれると何と答えますか?
まず五感と呼ばれるものが浮かぶ人が多いのではないでしょうか?
実はその他に前庭覚と固有受容覚と呼ばれる感覚があるのです。
この2つの感覚の働き、そしてそこに苦手さがあるとどんな問題が出てくるか考えてみましょう。
前庭覚
前庭覚は自分の身体の傾きやスピード、回転を感じる感覚です。耳の奥にある耳石器と三半規管が前庭覚を受容する働きをしています。
前庭覚には主に以下の3つのような働きがあります。
- 覚醒状態を操作する働き
- 眼球運動を保持する働き
- 身体のバランスを保つ働き
一つずつ解説していきます。
①覚醒状態を操作する働き
電車の中で揺れに心地よさを感じ、ついうとうととしてしまった体験はないでしょうか?
これは前庭覚がゆっくりとした単調な揺れによって働きが弱まり覚醒状態が下がっているからなのです。
逆にジェットコースターのような速くて揺れの激しい乗り物に乗っていて居眠りする人はいませんよね。
これは速さや大きな揺れにより、前庭覚が強く刺激され覚醒状態が高まっているからです。
発達障害により、この機能に偏りがある場合は覚醒状態が下がりやすく不注意に見える、あるいは寝つきが悪くいつまでも寝ないといったトラブルが起こります。
②眼球運動を保持する働き
例えば顔を左右に揺らしながらこの記事の続きを読んでみてください。
書いてある文章が読めますか?
読める人が多いと思います。
それは無意識のうちに視点が注意を向けるべき場所に固定されているからなのです。
発達障害によって機能が偏っている場合は目の周りにラップの芯をあてがわれたように視野が狭く、顔の移動と共に視点も大きくぶれてしまうため、周りの状況を把握することが難しくなります。
③身体のバランスを保つ働き
授業中など居眠りをしていて、最初は身体を支えて先生にばれないように気を付けていたのに、急にガクッとバランスを崩した体験はないでしょうか?
これは前庭覚に受ける刺激が単調なため、覚醒状態の低下と共に身体のバランスを保つ働きも低下したために起こります。
発達障害でこの機能が偏っている場合は姿勢の保持が難しく、何度注意しても姿勢が崩れるため、態度が悪いと思われてしまうことがあります。
固有受容覚
固有受容覚は筋肉の張りなどを記憶し、目で確認しなくても自分の身体の位置や動き、力の入れ具合を感じるための感覚です。
固有受容覚には主に次の3つのような働きがあります。
- 力や動きを調整する働き
- 情緒を安定させる働き
- ボディーイメージの発達を促す働き
①力や動きを調整する働き
私たちはお盆にスープを載せて運ぶ時、優しくそっと運びます。
逆に重い荷物を運ぶ時は力をぐっと入れて持ち上げようとします。
それは筋肉が経験から「こういう時はこれくらいの力加減」というのを覚えているから出来ることなのです。
そんな風に筋肉が事前に準備をしているので、重いと思っていた荷物が思いがけず軽い時に勢い余って転倒する、なんてことが起きるんですね。
発達障害によりこの機能が偏っている場合は行動する際に逐一目で見て確認しないと動けないので取り組みが遅くなったり、本人はおもちゃをちゃんと片付けているでも乱暴に投げ入れているように見えたり、消しゴムをかける時にちょうどいい力加減が分からず力が弱すぎて全然消えなかったり、逆に力が強すぎてプリントまで破ってしまうなどの問題が起こります。
②情緒を安定させる働き
イライラした時や怒っている時に全身に力をいれたり、歯を食いしばったりすることはありませんか。
これはそれらの動きによって興奮した気持ちを鎮めようとしているからなのです。
しかしこの機能がうまく働かないと、情緒が不安定となり、不快な気持ちを鎮めるまでに時間がかかったり、興奮のままにお友達を叩いてしまうなどのトラブルが起きてしまいます。
③ボディーイメージの発達を促す働き
ボディーイメージとは自分の身体を頭の中でイメージして、操作できる力のことです。
例えば私たちは目の前にあるトンネルのサイズを見て、自分が通れるサイズかどうかをおおよそ判断することができます。
それは自分の身体をそのトンネルの大きさと重ね合わせてイメージすることが出来るからです。
また自分の目の前にいる人の動きを真似することができます。
それは頭の中で相手の身体の動きを自分の身体の動きに重ね合わせるイメージを持てているからです。
しかしこのイメージが持てていないと、自分と他人の距離感を正しく把握できず、悪気はないのに他人にぶつかってしまったり、先生や友達と同じ活動がうまく出来ず、集団参加への意欲が低下してしまうことがあります。
では、前庭覚・固有受容覚の働きをよりよくするためにはどうすればいいのでしょうか。
それが「感覚統合」と呼ばれる方法です。次回は「感覚統合」についてご紹介します。
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